書評

日本人として
忘れてはならないこと

『江戸の備忘録』 (磯田道史 著)

立川 談四楼|落語家

 とにかく、秀吉は女性にみさかいがない。「秀吉の艶書」について読んでいると、ひょいとそんな一文が現れます。ほう、そんなに? と、つい読むスピードが上がります。

 江戸幕府を開いた徳川家康は水泳にうるさい教育パパであった。これは「家康の庭訓(ていきん)」の書き出しですが、家康と教育パパという言葉のギャップに、いよいよそそられます。そうやって読み進めると、家康が騎馬と水泳を重んじてたことが分かります。なぜか?

「戦は常に勝つとは限らない。負けいくさもある。負けいくさになると、どんなに偉い大将でも馬に乗り、泳いで逃げなくてはならない。しかし、こればかりは、家臣に代わってもらうわけにいかない。だから乗馬と水泳教育は絶対必要だというのである」。なるほどそれでと合点がゆくのです。

「宇喜多秀家の子孫」も読みごたえ十分なのですが、末尾数行に唸らされました。「日本人の家庭にとって、関ヶ原はひとつの節目であった。徳川家康の東軍に属して勝った側は、武士となり城下町に住んだ。一方、石田三成や宇喜多の西軍に属して敗けた側は帰農し、庄屋や地主として農村で力をたくわえていった。明治以後、この庄屋や地主が『地方名望家』となって、政治家や官僚、医者や教育者として、再び近代史に登場する。明治維新は関ヶ原の敗者復活の機会となった」。

 世に勝った側の末裔であることを自慢する向きは多いわけですが、明治維新が関ヶ原の敗者復活との記述には舌を巻きました。2つとも大きな節目とは理解していたのですが、結びつけて考えることがなかったからです。まさに著者ならではの論考です。

「日本人は坂本龍馬が好きである。歴史人物の人気投票をやると、たいてい二位になる。ちなみに一位は織田信長であることが多い」。「筆マメだった龍馬」のこの書き出しにもホウとなりました。信長の1位が効いていて、そうか、そうなのかと納得するわけです。

【次ページ】

江戸の備忘録
磯田道史・著

定価:530円+税 発売日:2013年11月08日

詳しい内容はこちら

関連ワード
新着記事 一覧を見る RSS

登録はこちら