解説

『あまからカルテット』 解説

『あまからカルテット』 (柚木麻子 著)

解説酒井 順子|エッセイスト

 友情を通じて様々な問題を乗り越えていく彼女達ですが、しかし四人の友情ストーリーは、これで終りではないのだと私は思います。長い女の人生を考えると、四人の場合、やっと第一楽章が終ったくらいのところではないか。

 なぜなら、女の友情ストーリーが最も激しい転調を迎えるのは、これからだから。

「私達って何でもわかりあっているわよね」「恋人や夫ですら、このチームワークを壊すことはできないわ」と思っていても、誰かが出産して子育て期に入ると、足並みは急激に揃わなくなってくるのです。子供がいる人といない人の生活リズムは著しく異なるようになり、関心事も話題もばらばらに。

 咲子、満里子、由香子、薫子の四人にも、さほど遠くない未来に、そういった時期がやってくることと思います。何年も会わないようなことも、あるかもしれません。

 しかしこの四人の友情は、それでも続いていく気がするのです。理由の一つは、「食の趣味が同じ」ということ。親子でも夫婦でも友人でも、他の相性が悪くとも、食のセンスが共通していると、その関係は長続きするもの。食べることへの熱意、すなわち生きることへの熱意を持つ四人は、これからも食べることを通じて、つながっていくのではないでしょうか。

 そしてもう一つ、若い頃に厳しく鍛錬された友情というのは、その先にどんな山だの谷だのがあっても、途切れずに続いていくということを、今の私が実感しているから、という理由もあるのです。

 私もまた、女子校時代からの友情を練りに練ってきた者であるわけですが、それでも友人達に子供ができてこちらには子供がいないという状況下では、次第に疎遠になりました。「もうこのまま、友情も終ってしまうのか」と思う時もあったものです。

 しかし母親達の子育てが一段落すると、友情は自然に元に戻ったのです。「焼けぼっくいに火が」的なテレも無く、ごく自然に友情が復活するのは、若い時代に恥ずかしいことも悲しいことも嬉しいことも見せ合ってきたからに違いない。

 四人にも、まもなく共にカルテットを奏でることが不可能になる時が来ることでしょう。しかしカルテットというのは、一人一人がソロとしても活躍できるほどの個性を持つ人の集まりだからこそ、成立するもの。たとえ友情の中断期間があっても、四人はその間にまた、一人ずつ異なる成長を遂げることでしょう。そして再び四人が結集した時は、ますます芳醇なハーモニーを響かせるに違いないのです。

あまからカルテット
柚木麻子・著

定価:560円+税 発売日:2013年11月08日

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