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百五十回に何が起こったか
村田雅幸

「オール讀物」2014年2月号より

直木賞150回を記念して、「オール讀物」臨時増刊号を発売しました。
朝井まかてさん、姫野カオルコさんの受賞作抄録、自伝エッセイ、記念対談、グラビア、選評の他、歴代受賞短篇セレクション(伊集院静「受け月」、浅田次郎「鉄道員」から桜木紫乃「ホテルローヤル」まで)など、完全保存版です。

そのとき、会場は温かな空気に包まれていた。
読売新聞記者が体感した直木賞二作受賞までのドキュメント。

 人間の考えることは、やはり不思議で面白い――。今回の直木賞を通して改めて思ったのは、そんなことだった。百五十回と百四十九回の違いは、区切りがいいか悪いかだけなのに、それでも人は、百五十回に価値を見出し、大騒ぎをする。

 まずは主催者である日本文学振興会が、候補作を例年よりも二週間ばかり早く、昨年十二月二十日に発表した。それに合わせ、各版元は「直木賞候補」と入れた「帯」を作って巻き直し、商機をうかがう。その翌日に発売された「オール讀物」一月号にも、抜かりはない。初めての試みとして候補六作の抄録と候補者六人のインタビューを載せ、さらなる“攻勢”に出る。書店とて黙っているはずもなく、都内の大型店を見れば、三省堂書店有楽町店のように、「オール讀物」と候補作を同じ棚に並べ、フェアを行う店がある。もちろん、新聞も例外ではない。朝日、毎日、読売の全国紙は切り口こそ違うものの、一月に入ってからそろって「芥川賞・直木賞百五十回」の特集を組んだ。あちらこちらでそれぞれの思惑が膨らみ、「お祭り」の規模が着実に大きくなっていく。

 そして迎えた一月十六日、選考会当日。午後六時少し前に、選考会場である東京・築地の料亭「新喜楽」に入ると、いつも私たちが発表を待つ部屋よりはずいぶん大きな広間に案内された。聞けば、取材の申し込みが多かったため、変更したのだという。確かに、顔なじみの文芸記者たちの間に、テレビの情報番組のクルーといった、これまで見たことのない顔がぽつぽつと混じっている。広いはずの部屋なのに、ゆったりと胡座もかけない。「まあ、百五十回だから仕方ないか」

 そんな状態で、周囲の人間と受賞作の予想などをしながら待つこと一時間あまり。七時十三分に文学振興会の担当者が姿を現した。手には受賞作を記した紙。大抵、芥川賞が先に決まるのだが、特別な回には特別なことが起きるのだろうか。担当者が貼り出した紙には直木賞受賞作が書かれ、紙はさらに一枚あった。二作受賞だったのだ。

「よし!」「ああ……」。記者たちからは、安堵の声や溜め息が漏れる。得意げな表情の彼は予想が当たったのだろう。若干不満そうな彼女は外したのか。わずかな時間だけ個人の心の内が顔を出したが、皆すぐに仕事モードに戻り、それぞれの社に電話をかけ始める。

「直木賞は、朝井まかて『恋歌』と姫野カオルコ『昭和の犬』。はい、二作受賞です」

 若い記者が、パソコンのキーボードをたたく音も響く。一昔前なら、この業界で「勧進帳」と呼ぶ方法(歌舞伎「勧進帳」の安宅の関の場面で、素性を疑われた弁慶が、とっさに勧進帳をそらで読み、窮地を脱したことに由来する)、つまり頭の中で文章を考えながら、逐一電話で吹き込むというやり方で原稿を送ったものだが、今は、パソコンで原稿を書き上げてから、通信で瞬時に送稿できる。ふと、直木賞が始まった昭和十年当時は、どんなふうに取材し、どうやって紙面を作っていたのかと思いをはせる。

【次ページ】「ジャージで来た理由を聞いて」

オール讀物2014年2月号

定価:950円(本体905円+税) 発売日:2014年1月24日

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