インタビュー・対談
『猫を抱いて象と泳ぐ』(小川洋子 著)

広大な盤上の世界の哀しさ

『猫を抱いて象と泳ぐ』(小川洋子 著)

聞き手「本の話」編集部 

天才が背負わされた危うさ

 

──相当、お好きなんですね。羽生さんに会われたのがきっかけですか。

小川  今回の小説の直接的なきっかけは羽生さんです。ボビー・フィッシャーという、戦後、西側諸国で初めてチェスの世界チャンピオンになったアメリカ人がいます。冷戦時代には、チャンピオンの座を西側が取るか東側が取るかで政治的に利用されていた側面もあるようです。

   そのフィッシャーはアメリカの英雄となるんですが、滅茶苦茶な変人でいろいろ騒ぎを起こすんです。日本に不法滞在をしていて、強制送還されそうになった時、当時の総理大臣・小泉さんに嘆願メールを出したのが羽生さんなんです。

   その羽生さんの文章が印象的でした。モーツァルトの人間性は、もしかすると尊敬されないものだったかもしれませんが、彼の音楽は人々に感動を与えました。ボビー・フィッシャーもそうです。彼の残す棋譜は芸術です、という意味合いのことが書かれていて、素晴らしい忘れがたい手紙でした。

   チェスの棋譜も楽譜や詩、絵画と同じで芸術になりうるんだなということを、このことによって知りました。『博士の愛した数式』を書くきっかけとなった、数学者の藤原正彦先生が数式は美しい、と仰った出会いと似ていました。

   また、フィッシャーに代表されるように、人間が知性の極限を突破すると狂気じみてくるんですね。それも数学者と似ているんですよ。天才が背負わされた危うさ、というのでしょうか。やはり世間の真ん中では生きていけないんですね。これは小説になるんじゃないかと、直感しました。

猫を抱いて象と泳ぐ
小川 洋子・著

定価:1780円(税込)

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