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土地の秘めた力が文学になる
小野正嗣さん 芥川賞受賞会見全文

1月15日、第152回芥川賞に小野正嗣さんの「九年前の祈り」(「群像」9月号)が選ばれました。受賞決定直後に行なわれた記者会見の模様を、書き起こしでお伝えします。

小野正嗣さんは1970年大分県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻博士課程単位取得満期退学、文学博士(パリ第8大学)。立教大学文学部文学科文芸・思想専修准教授。2001年『水に埋もれる墓』で第12回朝日新人文学賞受賞。02年『にぎやかな湾に背負われた船』で第15回三島由紀夫賞受賞。芥川賞候補は「水死人の帰還」「マイクロバス」「獅子渡り鼻」に続く4回目だった。

「おにい」が喜んでくれたらうれしい

司会者 はじめに、今のご感想を一言お願いします。

小野 選んでいただいたことを光栄に感じて、大変うれしく思っております。感謝しております。

司会者 それでは質問のある方、挙手をお願いします。

――おめでとうございます。小野さんは今まで前衛的な作品を書かれてきましたが、今回大きな変化があったように思います。何かきっかけはあるのでしょうか?

小野 僕自身は自分が前衛的だとは考えたことはありません。あたり前のことですが、作品の内容が要請してくる文体というのがあると思いますが、今回は書いている内容が他の作品よりもわかりやすいということならば、より鋭利な文体になったのだと思います。

――さきほど選考会で(選考委員の小川洋子さんから)「土地の力」という言葉が出ましたが、今回、舞台になった土地や故郷への思いをお願いします。

小野 大分県南部の蒲江町(現在は佐伯市)で生まれ育ちまして、そこで色々な人と出会い、おもしろいエピソードや事件に遭遇して、自分が大成してきました。作品を書くということは、土地、場所がないと書けないと思うんですが、僕の場合はそれが故郷だった。その土地から受け取ったものを文学にするので「土地の力」という言葉をいただいたのは、率直に言って大変うれしいです。

――ご自分のお兄さんを書かれたということですが、今回の受賞をなんと報告したいですか?

小野 作品を書いているときには兄は闘病中で、昨年の秋に亡くなりました。正確に言うと、兄について書いたのではなくて、兄に近づいている「死」を意識して書いていて、それに直接的、間接的に影響されたことは間違いありません。兄に捧げるという気持ちで書いておりました。「おにい」と呼んでいたんですが、「おにい」が喜んでくれたらうれしいですね。もういないですが、兄に喜んでもらいたい気持ちでいっぱいです。

――これまでも舞台にされている「浦」の人たちに、今回の受賞をなんと報告したいですか?

小野 田舎でめちゃくちゃおもしろい人たちに会ってきて、小説で人間をつくっていくときに経験が反映されています。小説の最後に、子どもが走って行ってお母さんを助ける場面がありますが、それもそう。蒲江で兄と僕を可愛がってくれた人が、僕と僕の子どもを船に乗せてクルーズしてくれたんですが、僕が海に落ちてしまって濡れねずみで家に帰ったら、皆で手を叩いて大笑いした。そういう小さなエピソードが積み重なっているので、田舎の人に喜んでもらえたらうれしいです。

――「浦」を出て、小野さんという舟はどこへ向かっていくのか教えてください。

小野 僕の舟はもうすぐ沈没しますよね(笑)。どこ行くかわかりませんけど、拿捕されないようにしたいです(笑)。

【次ページ】書いても答えが見つからず、次の小説につながっていく

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