エッセイ

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読めなくなったクリスティー

『アクロイド殺し』 (アガサ・クリスティー 著)

星川 桂
星川桂ほしかわかつら/1978年生まれ。劇団ワハハ本舗所属20年目の若手。「貧乏に負けない明るい節約」を旨にNTV『幸せ!ボンビーガール』やラジオ番組に出演。著書に『貧乏セレブ入門』。笑える節約方法をブログで毎日更新中。

「アガサ・クリスティーという作家の作品で『アクロイド殺し』という小説があります。この小説は発表後にフェアかアンフェアかで論争を巻き起こし、ファンの間でもベスト3とワースト3の両方にランクインする作品です」

 高校一年の時、現国の先生が授業中に何気なく言ったこの言葉で、私はその日のうちに『アクロイド殺し』を買いに走りました。アガサ・クリスティーが有名な作家だということは知っていましたが、ただそれだけで、それまで読む機会はありませんでした。『アクロイド殺し』なんて聞いたこともなかったので、もしかしたら本屋にないかもしれない。そんな気持ちで私は本屋さんの中をうろつきました。そして海外作家のカ行のコーナーで私は打ちのめされたのでした。

 そこにはアガサ・クリスティーの作品がびっしりと並んでいました。有名な『そして誰もいなくなった』『オリエント急行殺人事件』『ABC殺人事件』。ずらりと並ぶ作品の中に当たり前のように『アクロイド殺し』もありました。

 私は迷わず『アクロイド殺し』を購入し、意気揚々と読み始めました。

 今思えばバカだったけれど、十六歳だった私は、自分が冷静に読めばフェアかアンフェアかの論争に終止符を打てると思っていたのです。

 結果、終止符を打つどころか、私は論争を巻き起こしたトリックにまんまと魅了され、読み終わる頃にはすっかりクリスティーの虜(とりこ)になっていました。

 そこからは暇さえあれば本屋さんのクリスティーのコーナーに行き、気になるタイトルの本を買って読んだり、お金がないときはタイトルを眺めたり、裏表紙のあらすじを立ち読みして次に読みたい本を決めたりしました。

 高校を卒業してワハハ本舗で劇団員になった私は、しばらくクリスティーを忘れていましたが、近所に大手の古本屋さんが出来ると、再びクリスティーに没頭しました。風呂なしの貧乏生活の中でも出来る趣味と言えば、読書しかありませんでした。

 その頃、私は小説を読み終わった時に楽しみにしていることがありました。

 それは何回の読書で小説を読み終わったかを数えることです。

 私は読みかけの本を閉じるとき栞を使わずにページを折って閉じるタイプで、折ったページをそのままにして読み進むのですが、読み終わった時に折り目を数えると何回でその小説を読み終わったかわかるのです。

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オール讀物 2015年6月号

定価:980円(税込) 発売日:2015年05月22日

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