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憎んでいる相手の顔が見えないから対立する
羽田圭介さん 芥川賞受賞会見全文

7月16日、第153回芥川賞に羽田圭介さんの「スクラップ・アンド・ビルド」(「文學界」3月号)が選ばれました。受賞決定直後に行なわれた記者会見の模様を、書き起こしでお伝えします。

1985年東京都生まれ。明治大学商学部卒業。2003年「黒冷水」で第40回文藝賞受賞。著書に『黒冷水』03年河出書房新社刊。『不思議の国のペニス』06年河出書房新社刊。『「ワタクシハ」』11年講談社刊。『隠し事』12年河出書房新社刊。『メタモルフォシス』14年新潮社刊、他。

司会者 まず始めに、受賞のご感想を一言お願いします。

羽田 まず、そうですね……、何が起こったかわからない感じが(笑)、ありまして……。

 もう芥川賞は4回目の候補だったんで。1年前の候補になったのもあって、色んなことに慣れ過ぎてて、受かっても落ちてもあまり感情は変わらないかと思っていたんですけど、受賞したのは初めてだったんで、こんなに、そのぉ高揚感があるとは、それがほんとに、その予想外の高揚感に驚いています。

 前にもう、芥川賞は3回落ちて、野間文芸新人賞は2回落ちて、大藪春彦賞は1回落ちてて、で、デビューしたのが河出書房新社の文藝賞という、素人がプロになる賞で受賞して、それでプロになったんですけど、プロが書いた作品で選ばれる、プロが書いてプロに選考されて選ばれる賞は今まで6回全部落ちていたので、だから、そのプロの方に選んでもらう賞で選ばれて受賞できたというのは、すごいうれしいです。

――受賞の瞬間はどこでお聞きになりましたか?

羽田 銀座のカラオケボックスで、作家さん、編集者さんたちと一緒にいました。長嶋有さんの提案で、受賞したら聖飢魔Ⅱの「WINNER!」って曲を歌おうと決めていたんですよ。それで、聖飢魔ⅡとかX JAPANとか、オジー・オズボーンを歌っていたんですけど、みんな疲れてきて、なかなか6時半過ぎても、7時過ぎても電話が来なくて、「なんか嫌な予感がするな」と思っていたら、誰も歌ってないときに電話が来たんで。

――今回介護の問題が小説のテーマのひとつですが、改めて介護の問題について思うことは? 賞を取られて、おばあさんとかご家族に受賞して言いたいことがあればお願いします。

羽田 言いたいことっすか? 介護問題について言いたいことは……。

 社会的なことを言いたいのではなくて、結果としてそういうテーマを内包するという距離感の問題を考えてたんです。

 最近、メディアとか論調とかでも右か左かとか、高齢者対若者みたいな、対立構造をつくるのがもてはやされているときに、なぜそういうのが幅をきかせているかというと、憎んでいる相手の顔が見えないからなんだろうなっていう。

 たとえば地元から離れて祖父母と離れて暮らす人は、老人の顔があまり見えないからこそ、若い人は自分と関係ない年上の世代のことを「あの人たちは優遇されている」とか、簡単な二分化された構造をつくってしまうと思うんですね。それは縦じゃなくて横のつながりも同じで。

 世界中どこでも、自分の住んでる近い国とはけっこう仲が悪くなったりしやすいと思うんです。アジアとヨーロッパでも。日本だとどこに対しても、海を必ず隔てているわけですから、相手の顔を見ないで何かを言うということは、すごい簡単だと思うんですよ。

 そんな感じで実体のないものは、憎むべき相手というのをつくって相手の顔が見えないと簡単に言えてしまうという感じ。その相手の顔が見えたときにどうするか、異なる価値観とか異なる時代を生きて来た人に対して、顔が見える状態で、相手にどんな行動を起こすかというのを書こうと思いました。なので、介護問題や高齢化社会どうこうという感じではないですね、はい。

――ご家族には言いたいことないですか?

羽田 いや別に言いたいことないです(笑)。

――若い人が高齢者に対して歩みよるべきというようにおっしゃっていましたが、実際にこの小説で、若い人にどんな風なことを感じてもらいたいとお考えですか? メッセージみたいなものを。

羽田 先ほど申し上げたことと重複するんですけど、なんかちょっと不満を感じる相手とか、なんとなく憎しみを覚える相手、自分より優遇されているという感じで、ねたみの対象とか、おいしい思いをしている人を責めるということを、(先ほど言ったことと)同じですね。

 顔が見える相手、その相手に接近して、その人の素性とか感情を理解した状態で、自分がどんなことを考えたり言ったりできるかっていうことを、あのー、「相手の顔を知る」と、一言で言うとそれに尽きますね。 

【次ページ】口で伝えられることは小説に書かない

文學界2015年3月号

定価:970円(本体898円) 発売日:2015年02月06日

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