エッセイ

温泉のひみつ~羽田圭介さんに湯に目覚めてもらう

山崎 まゆみ

 先日、NHKのBSプレミアムで「ぜんぶ、温泉。」という番組が放送されました。ロケをした十月の北海道は紅葉の見ごろ。ただ、この番組は、食や景色を映すのではなく、湯そのものを取り上げるという制作方針でした。

 まず温泉専門家である達人が集まり、北海道の名湯をあげていきます。選定基準は、湯が良いかどうかのみ。そんな厳しい委員会が選んだ温泉を体験して頂くのは、今夏『スクラップ・アンド・ビルド』で、芥川賞を受賞された作家の羽田圭介さんです。私は選定委員として参加させてもらい、また羽田さんを案内する役割も担いました。

 撮影前に、番組の担当ディレクターに、羽田さんの温泉に対する気持ちを聞いてみると「(羽田さんは)旅というか、移動することがお好きなようで、その疲れをとるための温泉という考え方だそうです」とのこと。そんな羽田さんに、“湯に目覚めて頂く!”というのが達人のミッションでした。

 ロケ当日になって判明したのが、「羽田さんのファーストインプレッションを大切にしたい」というディレクターの考えで、羽田さんには台本も渡さず、誰が案内役なのか、そもそも案内役がいるのかも伝えていないとのこと。“ちょっと乱暴では……”と思いながらも、合流まであと数分。進めるしかありません。

 私はいきなり、登場し、「こんにちは!」とご挨拶。羽田さんは驚きを隠せない様子でした。なかなか目を合わせようとされなかったのは、ドギマギな気持ちの表れだったのでしょうか……。

筆者と羽田さんが対面し、湯巡りがスタート。受賞フィーバーに疲れた体は、癒されたのか

 羽田さんをご案内するのは北海道のニセコ温泉エリア。ニセコは非火山性の温泉ながら、湯にバリエーションがあり、湯めぐりに適しているからです。

 泥湯の湯本温泉郷の雪秩父もあれば、茶褐色の鯉川温泉、さらには光の変化により五色に変化する五色温泉、やわらかな新見温泉。そして全国でも珍しい緑色の湯の昆布温泉もあるのです。

 自己紹介も早々に切り上げ、緑色に輝く昆布温泉「ニセコグランドホテル」へと向かいました。ちなみにこの名は、昆布漁をした漁師が通った道沿いに湧く温泉だからという命名です。決して、昆布色だからではありません。

 お風呂のつくりは、男女別の内風呂を経て、露天風呂に行くと混浴があるというもの。“混浴露天風呂で先に私が隠れて待っていて、羽田さんを驚かす”という台本でしたが、その驚きようは、台本の想定以上でした。そりゃ、いきなり混浴では、びっくりするでしょう(笑)。羽田さんが落ち着くのを待つこともなく、私は湯の解説をスタートしました。

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スクラップ・アンド・ビルド
羽田圭介・著

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