インタビュー・対談
『戦場のコックたち』 (深緑野分 著)

十九歳の夏、僕は戦場に降り立った。新米兵士の過酷な「日常」と、愛おしき仲間たち

『戦場のコックたち』 (深緑野分 著)

聞き手「別冊文藝春秋」編集部 

 本作の読みどころのひとつは、第二次世界大戦中のヨーロッパを舞台に選び、最前線で戦った当時のアメリカ兵たちの日常を、繊細な描写でリアルに描きだしていることだ。

 ヒトラーが台頭、ヨーロッパで燻り始めた火種が世界中を巻き込んでいった一九四一年末、いよいよアメリカでも志願兵の勧誘が始まった。

「『これは君の戦争』そんなスローガンが掲げられ、主人公ティムの住む田舎町でも志願を決める友人たちがぞくぞく現れます。戦地に行かないのは気が引ける、それに自ら志願して行けばボーナスももらえるらしい、そんな誘惑にティムも抗えない。家族の反対を押し切って、十七歳で町を飛び出します」

 始まった訓練の日々。しかしそこは憧れていたような場所ではなかった。華々しくもなく、おまけにどうも自分には軍人としての適性が欠けているようだ……。現実に打ちのめされるティムの目に入ったもの、それが「コック兵募集」のビラだった。

「お守り代わりに料理上手な祖母のレシピ帖を失敬してきたぐらいで、料理への愛着は人一倍。食いしん坊で、特技といえるのはそれだけ。そんな彼の“才能”を目敏く見つけ、背中を押したのがエドワード・グリーンバーグ、通称“エド”でした」

 エドは同年代とは思えぬ冷静さと観察眼を持った寡黙な男で、一般兵から一段低く見られ、馬鹿にされる「コック兵」に就くことにも何ら躊躇(ためら)いを見せない。本作ではそんなエドとティムを中心に、衛生兵や補給兵、通信兵といった“後方支援仲間”が集まって、次から次へと発生する戦場でのトラブルを解決して回る。

「はじめは『プライベート・ライアン』や『バンド・オブ・ブラザース』で、これまでは光があたらなかった衛生兵が取り上げられたことで、私も後方支援に興味を持ちました。スピルバーグ監督とは趣味が合うなと勝手に思って(笑)。『バンド・オブ・ブラザース』なんて好きすぎて、テレビ放映当時、友人のために作戦の詳細や地図、どこでどの俳優さんが出てくるかという情報までまとめた三十枚のレポートを作ったことも」

 そんな溢れんばかりの愛が、深緑さんを本作に駆り立てた。

「勇敢で、惑うことなく戦場に立ち、あまつさえそこで活躍する……そんな英雄然とした兵士に、いま日本で共感する人ってどれぐらいいるんだろう、と。コック兵って他人の命を預かりながら、同時に自分でも銃をとって闘い、二倍大変なんですよ。衛生兵に至っては護身用の銃ひとつで、銃弾飛び交うなか仲間を助けに飛び出して行く。戦場の中の“ここ”を書きたいと私は思いました」

 帯に「若き合衆国コック兵が戦場で出合う〈日常の謎〉」とある。戦場という〈非日常〉に飛び込んでいった彼らにとっては、その場所こそが〈日常〉になる。しかし一方で、日本に生まれ育ち、パスポートも持っていないという深緑さんにとって、そこは〈日常〉ではない。どうして彼らに、こんなにも血が通ったのか。

「戦地に赴いた兵士たちが残したたくさんの記録や証言、使っていた教範。触れられるものには何でも触れて、会える人には会って、そこから想像しました。おまえなんか何も知らないくせにと言われてしまえばそれまでだけど……だから、ひとつひとつ真面目にやるしかないと思って」

 巻末には海外の物を含む大量の参考文献リストが並ぶ。

「どれだけ調べてもまだまだ先があって、もっともっと知りたいと思いました。子どもの頃に通っていた日曜学校で知ったユダヤ人の迫害の歴史。あのときから始まった、答えが出ないことを考え続けるということ、それをいま思いきり、やってます」

    ◇    ◇

『戦場のコックたち』 東京創元社 本体1900円+税

深緑野分(ふかみどりのわき)
1983年神奈川県生まれ。2010年に「オーブランの少女」が第7回ミステリーズ!新人賞佳作に入選。13年、同作を表題作とする短編集で単行本デビュー。15年8月、初長編『戦場のコックたち』を刊行。発売直後から大きな話題を呼んでいる。

掲載別冊文藝春秋  2016年1月号

別冊文藝春秋 電子版5号(通巻321号/2016年1月号)

定価:※各書店サイトで確認してください
発売日:2015年12月18日

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