インタビュー・対談
『謎の毒親』 (姫野カオルコ 著)

毒親の不思議を相談形式で綴る

『謎の毒親』 (姫野カオルコ 著)

聞き手「オール讀物」編集部 

 相談小説、謎、毒親――タイトルを構成する一つ一つの単語が読者の好奇心を激しく揺さぶる本作は、往復書簡形式で家族生活における謎を解き明かす、ミステリ仕立ての連作短編集だ。

「江戸川乱歩やエドガー・アラン・ポーは内容とは無関係に、語り口の妙で読ませてしまう。彼らの技巧に対して、この年齢になると、エモーショナルな感慨として沁み沁みと感服しまして、せめて彼らの足元の影に指の先が触れる位には自分も頑張ってみようと思ったのです」

 和治光世(わじみつよ)は幼少期から両親の不可思議な仕打ちに悩まされ、その理由を知りたがっていた。数十年が経ち、両親の死後、かつて足繁く通った文容堂書店を訪れると、店主の手による壁新聞「城北新報」内に読者の質問に答える「打ち明けてみませんか」欄があったことを、ふと思い出した。店主に尋ねると、壁新聞はもうないという。

 自室に戻った光世は、今はなき城北新報に宛てて一心不乱に筆をとる。長年不思議に思っていた、小学生の時に下駄箱や木琴の名札が何者かに貼り替えられた事件について相談を認(したた)め投書すると、店主夫妻から推理を記した返事が届いた。それから文通が始まり、光世は心にわだかまっていた両親にまつわる“謎”の数々を店主夫妻らに問いかける。

「これまでにも家族や家庭について、自身の体験に寄せた自伝的要素の強い物語を書いてきましたが、『こんな親がいるはずない』と言われることが多々ありました。なぜ父は死人の臭いがすると娘を詰ったのか。なぜ母は眠る娘の乳房を揉んだのか――。あまりに奇怪だから、純粋に『なんで?』と思う気持ちが伝わらないんです。

 名札貼り替え事件は毒親とは関係ないけれど、光世はそれと同じレベルで両親の振る舞いに疑問を抱いている。読者にその視点を共有してもらうためには不可欠のエピソードでした」

「毒親」は一見立派に見えて、子供に毒作用となる親を指す。本作における毒親の逸話は、すべて著者の実体験に基づくというから驚きだ。

「光世は緻密な計算を練り、毒親のもとから脱出を企てますが、物理的距離を置いても解放はされないし、縁も切れません。彼女が文容堂さんとの文通で救われたように、他人だからこその居心地のよさがある。家族の絆が重んじられますが、他人との絆を大切にしてもいいのではないでしょうか。

 同じように嫌な気持ちを抱えながらも、それを言語化できずに苦しんでいる人の一助になれば、と思って書きました」

姫野カオルコ(ひめのかおるこ)

1958年、滋賀県生まれ。90年『ひと呼んでミツコ』で単行本デビュー。2014年『昭和の犬』で直木賞を受賞。『受難』『ツ、イ、ラ、ク』等著書多数。

掲載オール讀物 2016年1月号

謎の毒親
姫野カオルコ・著

新潮社 定価:本体1,600円+税 発売日:2015年11月20日

詳しい内容はこちら

オール讀物 2016年1月号

定価:980円(税込) 発売日:2015年12月22日

詳しい内容はこちら

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