インタビュー・対談
『ロンドン狂瀾』 (中路啓太 著)

武器を使わぬ戦争に挑んだ男たち

『ロンドン狂瀾』 (中路啓太 著)

聞き手「オール讀物」編集部 

 昨年『もののふ莫迦』で「本屋が選ぶ時代小説大賞 2015」を受賞した著者が初めて“昭和史”に挑んだ意欲作だ。主な舞台は1930年の日本とイギリス。ロンドン海軍軍縮会議における欧米列強との厳しい交渉――条約を締結させた浜口雄幸(おさち)首相と誇り高き外交官・雑賀潤(さいがじゅん)の奮闘が描かれている。

「1930年前後は重要な時代です。一般的には、戦前の日本には民主主義などなく、軍国主義一色であったことが戦争の原因と思われていますが、実はそうではなく、当時の水準ではきちんとした民主主義が機能していたし、軍縮の努力もなされていました。それで何故、戦争への道を進むことになったのか。この転換点を描きたかった」

 軍縮会議では、補助艦の保有量制限などが話し合われたが、アメリカ、イギリスと、日本の主張には大きな隔たりがあった。“外交は武器を使わない戦争だ”という信念のもと、米英と粘り強く交渉した雑賀らは、なんとか調印にこぎつけるが、国内での条約批准という壁に直面。抵抗勢力を抑え、条約を締結した政府に対して、軍部や右翼からの非難が高まり、“統帥権干犯問題”が起こって、浜口首相は右翼に狙撃されてしまう。

 政党内閣が、安全保障政策を主導的に決定した時代を著者は、“戦前の政党政治隆盛の頂点”と捉える。当時の二大政党の興隆と崩壊のドラマも、読みどころの一つだ。

「第一次世界大戦の教訓を受けて各国が、軍縮を目指した戦間期に関心がありました。だが“協調路線”は結果的には失敗に終わり、戦後処理の難しさがあらわになります。一方で我々が現在直面している、過激派組織ISやシリアの内戦なども、ある意味では戦後処理の問題。混迷する現代の国際情勢を考えるうえでの手掛かりが、この時代にあると思うのです。

 日本では戦争を振り返る時、“侵略された立場になって考えるべきだ”と言われることが多いですが、善悪の概念を取っ払って、中立の立場で、日本人の問題として歴史をたどる方が、戦争の抑止につながると思うんです。“軍人は悪者だ”で済ますのではなく、軍人がどういう考えで行動していたのか。世論がなぜ戦争を支持したのか。中立的な視点で辿るべく、この小説を書きましたし、今後も書いていきたいと思っています。ただ、中立的な視点というのは難しくて、悩み抜いたというのが書き終えた今の気持ちです」

 戦後70年を経て、戦争を知らない世代が増えてきた今こそ、戦前の日本を理知的に描いた本作が、読まれるべきではないだろうか。

中路啓太(なかじけいた)

1968年東京都生まれ。06年に「火ノ児の剣」で小説現代長編新人賞奨励賞を受賞し、作家デビュー。15年、『もののふ莫迦』で本屋が選ぶ時代小説大賞を受賞。

掲載オール讀物 2016年3月号

ロンドン狂瀾
中路啓太・著

光文社 定価:本体2,100円+税 発売日:2016年01月18日

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オール讀物 2016年3月号

定価:980円(税込) 発売日:2016年2月22日

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