自著を語る

相づちの打ち方から会話のツボまで

『聞く力』 (阿川佐和子 著)

阿川 佐和子Sawako Agawa作家・エッセイスト

 その少し前、「週刊文春」の対談でお目にかかった、コピーライターの糸井重里さんのお話も印象的でした。

 本書にも書きましたが、糸井さんは東日本大震災が起きてから、「被災地に行く理由が見つからないけど行かなきゃならない、という気持があって、でも理由がなきゃ観光旅行と何が違うんだって、自問自答して」いらしたそうです。

 そんなとき、糸井さんはツイッターで、被災者の女性と知り合います。そして、

「被災地に行きたい気持は山々だけど、どこへ行って何をすればいいのか分からない」

 と伝えると、その女性から、

「避難所の人たちの話を聞いてあげてください」

 と言われたのだそうです。「話を聞いてくれたというだけで、孤独じゃないって分かるから。自分が忘れられていないと気づくから」と。

 それを聞いて、私は「聞くだけでも人様の役に立つんだ」と気づかされました。ならば、まだ修行中の身ながら、これまでの経験をもとに、「聞く」ことについて語る意義はあるのかもしれない、と前向きになれたのです。

 かつて父から、「少しは(文章が)うまくなってきた」と珍しく褒められたことがあります。しかし父はこう付け加えました。「少し上手くなったと思うと筆が滑るから気をつけろ。(阿川弘之氏の師である)志賀直哉先生の目に止まると思って書け」。

 以来、どんな原稿を書くときも、志賀先生がお読みになったら……、と想像しながらパソコンに向かっています。

 父の言葉はインタビューにも通じると思います。開き直るわけではないのですが、私がいつまでたっても対談に慣れることができないから、「面白い話が聞けなかったらどうしよう」と、毎回、初心者のようにオドオドしているから、この対談が続いているのではないかと思うのです。実際、必死なんです。

 でも、もし私がインタビューに慣れて、「このくらいでいいか」と「言葉を滑ら」せるようになったら、読者にあきられてしまうかもしれません。たまに、「まあ、こんなもんだろう」と気を抜いたり、常套的なインタビューをしてしまったときは、やはり出来が悪いですからね。

 本書では、「相づちの極意」「質問は3本」「安易に『分かります』とは言わない」など、ふだんの取材で気をつけていることを紹介しました。これらが、どれだけ世の中の役に立つのかは分かりませんが、「聞く」ことに興味をもたれた方がもしいらしたら、久しぶりにお婆ちゃんの昔話でも聞いてみてください。家族の歴史など思わぬ発見があるかもしれませんよ。

聞く力
阿川佐和子・著

定価:840円(税込) 発売日:2012年01月20日

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