エッセイ

温泉のひみつ~外国人観光客の“温泉事情”

山崎 まゆみ

 以前、宿泊客のうち欧米人の割合が六割を超えるという旅館に泊まった経験があります。この時はチェックインから驚きの連続でした。強烈な香水や体臭が鼻をつき、フロントの印象は、まるで欧米の空港にでも到着したかのようでした。伝統的な温泉宿ならば、ほのかで品のある香りが漂うはずが、この時は強烈な匂いにずっと違和感を抱いたままでした。その宿ではスタッフ全てが流暢な英語を話し、広東語、韓国語、フランス語を話せるスタッフも。さらには、料理長自らが、和食を英語で説明していました。「八寸」の説明を意味を英語で聞いて、感心しましたが、宿の雰囲気は“異空間”そのものでした。

 中国人観光客向けに、中国人が大型旅館を買収するというケースも増えています。日本の伝統的な温泉旅館を、外国人に楽しんでもらうことはやはり難しいのでしょうか。

 バランスをうまく取っている旅館が、群馬県四万温泉にあります。「柏屋旅館」は全十五室という規模の宿。宿泊者は日本人が多いですが、米国、豪州、シンガポール、香港などからの外国人旅行者が、全体の七パーセントを占めるそうです。

四万温泉柏屋旅館の貸切露天風呂。湯船の框には地元産のヒノキが使われている

 四万温泉という田舎の小さな温泉地の旅館に外国人が来るようになったきっかけは、二〇一四年十二月のホームページのリニューアルでした。「貸切露天風呂が三か所、露天風呂付き客室も二か所あり、タトゥーがあるお客様も入浴ができる」「東京駅からバスで直行便があるから迷わない」など、外国人観光客にとって必要かつ、わかりやすい情報を公開。それをSNSなども使って、世界に広く伝えているのです。

 また、チェックインの際に、外国人観光客に、食事の時間や風呂の案内を記したパンフレットを配ることで、宿の使い方が理解され、従業員らも、日常会話程度の英会話で、お客様を受け入れることができるようです。柏屋旅館の主人は、「最も大切なことは、スタッフたちに英語ができなくても大丈夫! という意識を植え付けること。自信をもって対応させること」と話していました。

 実際、トラブルもないようで、小さな旅館にできる“理想的なもてなし”と言えるのではないでしょうか。訪日外国人が増えるという好機を活かして、温泉地や旅館も変化していく時期がきているのかもしれません。

●四万温泉 柏屋旅館
群馬県吾妻郡中之条町四万3829
TEL 0279-64-2255
♨ナトリウム-カルシウム塩化物硫酸塩泉

●野沢温泉 外湯「大湯」
長野県下高井郡野沢温泉村豊郷9328
営業時間 5時から23時、原則年中無休
♨単純硫黄泉

掲載オール讀物 2016年10月号

オール讀物 2016年10月号

定価:980円(税込) 発売日:2016年09月21日

詳しい内容はこちら

関連ワード
新着記事 一覧を見る RSS

登録はこちら