インタビュー・対談
僕らの上京物語

林真理子×マキタスポーツ 「山梨」発「野心」経由のふたり【後編】

聞き手「オール讀物」編集部 

 それは光栄なお話です。あの小説は、日川高校が舞台なんですよ。

マキタ そうですよね。でも、僕にはこんなこと書けやしないって、とてつもない距離を感じました。同じ地域に育って同じ高校に通っていたのに、どうしたら山梨の風景をこんな風に表現できるんだろうって愕然としました。例えば作中で、葡萄農家が種なし葡萄を作るために、生育途中の葡萄を薬液につける“ジベ”という作業が出てきますよね。その作業をすると指が薄桃色に染まるということは僕も知っているのですが、林さんの小説だと、それが思春期独特の恥ずかしさと結びついているんです。それって、僕が見ていた山梨と全然違うんです。

 それは時代の違いもあると思いますよ。まだ純真な高校生の気風を残してた私の高校生の時代と、それから十五年経って、カウンターカルチャーがたくさん入ってきたころのマキタさんの高校生活とは全く違うはずですから。

 そして、マキタさんもご本名の“槙田雄司”で「雌伏三十年」という小説を、『文學界』に連載していらしたでしょう。素晴らしいことではないですか。

まきたすぽーつ/1970年山梨県生まれ。芸人、ミュージシャン。2013年映画『苦役列車』でブルーリボン賞新人賞。著書に『一億総ツッコミ時代』など。

マキタ いえいえ、小説とはいっても、まだ完全なる虚構のものは書けないので、半分自伝という形式にしました。まずは、生涯に一つしか書けないものを書きたいという思いもありました。

 でも、作家は誰でも、最初は自分のことを書くことから出発しますよね。そこからまた別の分野に飛躍する方もいれば、私小説で成熟を見る人もいらっしゃいますから、色々な方法があると思います。

マキタ 執筆中は身を削るようで、毎月本当に胃が痛くなりました。とにかく今は、恥ずかしいとも何とも言えない気分で、一回この作品と距離を置きたいです。

 でも、それを乗り越えなきゃ。私はわりとそういうところが鈍感だから、早く作家になれたんだと思う。『ルンルン』を書いたときに、「よくこんなこと書けるね」とか「恥ずかしくない?」とかみんなに言われたんですけど、「え、なんで? 書くってそういうことでしょ」って思っていました。

【次ページ】世の中のイメージを裏切りたい

オール讀物 2017年1月号

定価:980円(税込) 発売日:2017年12月22日

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