解説

宇宙論の興奮を体感させたクラウス教授の「宇宙白熱教室」

『宇宙が始まる前には何があったのか?』 (ローレンス・クラウス 著/青木薫 訳)

解説井手 真也|NHK 大型企画開発センター エグゼクティブ・プロデューサー

 翌日から、私たちの心の準備もままならないまま、連続講義に突入することになった。一日二回分、計四回の講義を二日間で一気に収録していくのだ。受講生たちは、大学周辺に暮らす子供からお年寄りまでの、恐らくは科学に興味はあるものの、最先端物理学には全く縁がない一般の人々だ。一体どんな講義になるのだろう。私たちだけでなく受講生たちもそう思っていたに違いない。その受講生たちをクラウス教授は、まず、ちょっと乱暴な言葉で挑発した。「君たちはこの宇宙についておめでたいほど無知だ!」「広大な宇宙にとって、君たちなど全く取るに足らない存在なのだ!」。時おり不敵な笑みを浮かべつつ放たれる教授のこうした言葉には、カチンとくる人もいたかもしれない。だが、さらにこう続けた。「そんな君たちでも、この四回の講義を聞けば、宇宙論の最先端に必ずたどり着ける!」。ふたを開けてみれば、私たちの不安とは裏腹に、講義は見事なほどのエンターテインメント性を伴いつつ、最先端の宇宙論の深遠へと導いてくれるアクロバット・ショーのような素晴らしい輝きを放つものとなった。

 それにしても一体どうやって、最先端の物理学に接したことがほとんどない受講生たちを、暗黒物質や暗黒エネルギーなどといった難解な世界へと導くことができたのか。驚くべきことに、そこには一般向けの講演会などにありがちな論理のごまかしやすり替えがほとんどなかった。中学で学ぶ物理の基礎の基礎からスタートし、初歩的な数学を白板で展開しながら、解りやすく、楽しく、しかも話をはしょらずに真正面から、猛烈な牽引力で進んでいったのである。

 第一回と第二回は、物理学へのスペシャルな入門編だった。宇宙のとてつもないスケールの広がりを、太陽系や銀河などが映し出されたスライドを手掛かりに、受講生たちに実感させていく。しかもそこには巧みな仕掛けが隠されていて、文字通り天文学的な大きさの数値を扱う宇宙論に欠かせない、指数による数字の記述や、空間、時間、物質といった物理学の最重要の概念を、受講生に知らず知らずのうちにすり込んでいくのが特徴だった。さらに、「物理学では物事をおおざっぱに捉えることが大事なんだ!」と説き、緻密な学問という物理学への印象を徹底的に破壊していくから痛快だ。この入門編では、指数のほか、物理学者が用いる「フェルミ推定」と呼ばれる手法や、「次元解析」といった大学院レベルのテクニックまでが登場し、物理学という学問が持つ、まるで魔法のような力が受講生へ次々と伝授されていったという感じだった。

【次ページ】

宇宙が始まる前には何があったのか?
ローレンス・クラウス・著/青木薫・訳

定価:本体800円+税 発売日:2017年01月05日

詳しい内容はこちら

関連ワード
新着記事 一覧を見る RSS

登録はこちら